
年始の休暇を利用して、金沢21世紀美術館で開催中のオラファー・エリアソン展「あなたが出会うとき」を観てきました。
結論から言うと、人間の知覚に揺さぶりをかけることで意識や自己の本質を問う彼の作品が、インタラクティビティという新しく強力な翼を持ち、内なる知覚から外なる環境へとイメージの視野を広げながら飛び立った、とでも例えたくなるような、ほんとうに素晴らしい展示だったと思います。
そして金沢21世紀美術館という展示空間も、彼の思想、クリエイティビティが発揮されるのにふさわしい場だったのだなと感じました。建築家とアーティストの敏感な問題意識たちが、「現代」というふるいの中で出合い、混ざり合い、冬の金沢の空から静かに降り積もり、この場所とタイミングでしか有り得ない体験を私たちに提供してくれていたのでした。
大げさな言い方だけど、ほんとによかったですよ。
このブログを読んだ人が、一人でも多くの人が金沢に行ってこの展示を見てくれるといなぁ・・・
注)以下は、個人的な備忘録としての、作品ごとの概要・感想です。内容を知りたくない方、他人の感想を事前に見たくない方は、すっ飛ばしてください。
3 Room for one colour(一色の部屋)
オレンジの単波長の光だけで照らされた部屋。部屋の中にあるすべての物が、グレースケール単色に見える。
5 Your body as eye(眼になった身体)
50センチ四方程度の箱の中に、(人間の)両手の動きが映し出されている。箱の中は鏡張りになっており、箱に近づいて中を見ると、手の動きが万華鏡のように見える。
6 Less light horizon(微光の水平線)
10メートルくらいの真っ黒な立方体の部屋。入り口は無い。その壁面に1センチくらいの細さでスリットが入っており、中から光が漏れている。近づいてみると、黒い部屋の中は実は屋外で、漏れている光が太陽光であることが分かる。
7 Life is lived along lines(人生は線に沿って営まれる)
暗い部屋の中に、針金や薄い金属製の3点のオブジェが吊るされ、ゆっくりと回転している。オブジェには強い光が当てられ、その影がスクリーンに投射されている。部屋に入った観客はまず、スクリーンに投射された影のみを見ることになり、やがてその実体であるオブジェを発見するという動線が作られている。
9 Your making things explisit(見えないものが見えてくる)
うすい霧で満たされた巨大な部屋の中、一つの壁から対向する壁まで、細く長い一閃の光が放たれている。光の筋の中央付近には、ガラス製の電話ボックスくらいの大きさの箱が置かれている。霧によって光の筋がくっきりと見えるが、ガラス製のボックスの中だけは霧が届かず、光の筋が途切れているように見える。
10 Object defined by activity(動きが決める物のかたち)
暗い部屋の中に、形を変化させる氷の彫刻のようなものが3つ置かれている。しかしよく見ると、それらは小さな噴水で、ストロボライトの短い間隙の閃光で映し出されているために、あたかも固形の造形物のように知覚していたことが分かる。
11 Where do you come from? What are you? Where are you going?
21世紀美術館の小さな中庭に、透明の壁と屋根でできた10メートルくらいの通路がある。その中央に巨大な扇風機が設置され、通路をふさいでいる。
12-B Slow-motion shadow in colour(ゆっくり動く色のある影)
黄、オレンジ、赤、マゼンダ、青、緑。6色のライトが部屋の中に置かれ、壁を照らしている。人がその光の中に入ると、黒い人影の周りに6色の影ができる。
12-C Wannabe(ワナビ)
天井から吊るされたスポットライトが、床を1メートルくらいの円形の光で照らしている。
14 Your watercolour horizon(水の彩るあなたの水平線)
直径15メートルくらいの円形の暗い部屋の中央に、うすく水を張った、高さ数十センチ程度の円形の大きな水槽があり、その中央に下向きにライトが設置されている。ライトの光は水面に斜めに入り、水槽の底にある鏡で反射され、部屋の壁に投射される。光は、水面に斜めに入ることで波長分解され、壁に投射されるときには赤・青・オレンジなど複数の光の組み合わせとなっている。また壁に投射される光は、水面の揺れに同期してゆらゆらと揺れている。
16 Your atmosphere colour atlas(あながた創り出す空気の色地図)
白い霧が立ち込めた部屋。数メートル先しか見えない中を歩いていると、霧の色が、赤や緑、青へと変化していく。人が立つ場所によって、3原色が混ざった複雑な色を見ることができる。
どの作品も、インタラクティブ性が強く考慮されている。作品に人が身体的に関わることで、作品の意味を発見することができるのだ。知覚されるもの、つまり物の形や色、あるいは光そのものは、絶対的な存在ではなく、「見る人」と「対象」の関係性において、その意味が規定されているということだろ。(アフォーダンスに、こんな概念があった気がする。)作品のコンセプトにこういった要素が強く含まれているのは、私たちが生活のいろんな場面で環境(問題)を意識することが多くなったことと、決して無関係ではないだろう。
昔は「見る(鑑賞する)」ことが中心だったアート作品と鑑賞者の関わり方も、ここ数十年でより「体験する」要素が強くなっているのだと思う。新潟で開催されていた大地の芸術祭も、アートを自然の中に解き放つことで環境と相互作用させ、アートを体験する「場」そのものを鑑賞者に提供していることが重要なポイントとなっていた。
アートが、美術館という巨大な額縁から抜け出している。あるいは、美術館そのものの意味を変容させながら成長しているのだ。
美術館というメディアの捉え方。知覚という既成概念の裏切り方。広告に役立つことがたくさん潜んでいるなぁ。
オラファー・エリアソン あなたが出会うとき(公式サイト)